
25AW Collectionとハンス・アルプ
今回は、7月より展開がスタートした25AWコレクションについてお話したいと思います。 継続して発表しているボディシリーズに加えて、グロースシリーズも、彫刻家ハンス・アルプの影響を受けたコレクションですが、その時々で彼の作品や言葉から受け取ったものを咀嚼し解釈して、ジュエリーに落とし込んできました。 ちょうど今年の春に日本でも、彼とその奥様であるソフィー・トイバー=アルプによる展示が開催されていて、2度足を運びました。 すでに25AWは昨年12月に完成していたため「答え合わせ」をするような時間でもありました。彼の作品を目にすることで、自分の感性がどこに強く反応していたのか、どんな部分に触発されていたのかが、より深く腑に落ちた感覚がありました。 直営店でも手書きのコンセプトを展示していますが、このジャーナルでもご紹介させてください。 彫刻家・画家であるハンス・アルプは、「芸術とは人間の中に実る果実のようなものであり、それは木になる果実や母親の胎内で育つ子どものようなものだ」と語っています。彼の作品は、自然界のモチーフを抽象的に表現し、曲線や膨らみ、突起などの表現が生命の成長を感じさせますが、この"成長"というプロセスをブランドのアイコニックなフォルムに取り込み、そのコンセプトをさらに発展させることで、未来に広がる可能性を探求しました。 unのコレクションには、身体に纏わるシリーズとして、セリュール(=細胞)シリーズ、ボディ(=身体)シリーズがありますが、グロースはその中間にあるシリーズです。芽吹き、育ち、変化し、やがてまた新たな循環へと向かっていく。そのプロセスの中にある“命のかたち”を彫刻的にとらえたコレクションです。 たとえば"CCC Ring"は、その象徴的なピースのひとつで、自然界に見られる有機的なリズムや、生命が連綿と続いていく様子を、連なるかたちで表現しています。流れるように繋がるそのラインには、生命の奥に流れる美しさと力強さを宿しています。 また、カラーストーンで表現したピアスでは、2つの異なる石を用いました。オニキスは、生命力の根源を象徴するような、強いエネルギーを秘めた石として、カーネリアンは、血や内臓のように、内側をあたため、めぐらせるような“命の温度”として選びました。 どちらも、身体の深い部分で育まれてきたものが、ようやく芽吹き、外の世界にそっと顔を出したような、そんな「始まりの瞬間」をかたちにしました。海の中を泳ぎ始めるような、どこか生まれたばかりの命が旅立つようなイメージです。 骨や歯を思わせるモチーフにはホワイトアゲートを用い、ブランドオリジナルカットで仕立てました。ほんのりと透ける白は、未完成で成長の途上にある姿を思わせ、曖昧さや儚さを内包しながらも存在感を放っています。 25AWを制作する中で気づいたのは、そのフォルムが縄文時代から存在する勾玉や、古代ローマ時代に用いられたイタリアンホーンを連想させるものであったということです。これらは古くから護りや魔除けの象徴とされてきた形であり、デザインをしていて自然に現れていました。だからこそ、身につける人にとって、お守りのように寄り添ってくれる存在になるかもしれません。 そして今回のビジュアルには、コンセプトに沿って、身体の一部ともいえる白・ベージュ・赤をキーカラーに、対極する色彩が織りなす世界観を表現しています。こちらはInstagramに随時アップしていきますので、ぜひご覧いただけると嬉しいです。 ハンス・アルプの作品は、観ているとどこか呼吸をしているような感覚になります。触れられそうで触れられない、でもたしかにそこに“生命”があるような、そんな温もりと静けさを感じさせてくれる作品たちが、わたしの心を魅了させてくれます。 いつか、ドイツ・ボンにある美術館にも足を運び、彼の作品たちともっと深く向き合ってみたいと思っています。