はじめに

皆さんとun、そしてわたしとの距離が、少しでも近くなるきっかけになればと思い、1年ほど前から温めてきたジャーナルが、ようやく形になりました。わたし自身の経験を通して生まれた視点や、心から感じている想いを共有することで、unのことをより深く感じ取っていただける機会になると嬉しいです。

更新は不定期になりますが、ジャンルにこだわらず、その時々で伝えたいことを綴っていけたらと思っています。

初回は、わたし自身の体験を通して心に刻めたことや改めて大切にしたいことについてお話しさせてください。

実は昨年、人生で初めて手術が必要な病気と向き合うことになりました。もしかするとブランドを一度お休みしなければいけないかもしれない、そんな現実が突然目の前に現れて怖かったです。幸い早期発見で完治して元気に過ごしていますが、振り返ると、あの出来事を境に濃密で変化に満ちた1年半がはじまりました。病気のこともあり、わたしはここで人生を終わらせたくないと強く思い、挑戦を続けることを自分に課して、とにかく速度を上げて走り続けました。

そして、ブランドを立ち上げてからこれまでに"出会うべくして出会った人たちがいる"ことを改めて実感する瞬間もあり、その縁の意味を少しずつ紐解いていくような旅の中で、生きていると、"時には痛みを超えないと見えない景色が、最も美しいタイミングで訪れる"と強く思うようになりました。そこから自分にできることとは何か?という問いに、これまでとは少し違った感覚で向き合えているような気がしています。

そして病気を乗り越えた今、リラックスした心で表現ができています。
改めて実感するのは、表現とは、哲学を貫き通す旗を決して下ろさないこと、その旗を掲げ続ける孤高と信念の中にこそ、美しさは宿ると信じています。それが何を残す旗であるかがすべてであり、さらに唯一無二であり続けることこそが、創造を生み出す源だと思っています。
わたしがこのような気持ちで強くいられるのも、unを愛してくださる皆さまのおかげです。表現できることはとても特別で有り難いことで、そこに敬意をもって、これからも人生をかけて芸術の道を歩んでいきたいと強く思っています。

そしてもう一つ、わたしがなぜこのようなジャーナルを設けたのかをお伝えさせてください。

病気のことに少し触れたのは、わたし自身の経験をただ共有したかったからだけではありません。それは、わたしが歩んできた背景を知ってもらうことで、作品や言葉がより“生きたもの”として伝わってほしいと思ったからです。

これからは、AIの時代です。AIには、日常の喜びや痛み、迷いや願いといった"物語"はありません。けれど、人間はその人の背景や物語に触れたときに、自然と“関係性”を結ぼうとします。
作品に込めた想いや、創造の根にあるものが、どんな経験や背景から生まれたのか。それを伝えることは、これからますます大切になると感じています。
表現の分野にもAIが深く関わってくる未来は避けられません。
AIがデザインを100%手がけるようになったとしても、わたしたち人間は、これまで通り自らの手で創造することを続けていく必要があります。それは脅威でもある一方で、だからこそ人間にしか宿せないものの強さが、より際立つと感じています。

わたしは、手仕事でしか生み出せないものをつくっています。デザイナーとして心から信じていることは、痛みや迷いを超えた先でしか到達できない創造があること、そしてその作品の生みの親が語る言葉に勝るものはないということです。
そこに至るまでの物語と、そこから生まれたさまざまな感情が編み込まれているからこそ、その作品には、“宇宙の果てまで届くような愛が宿る"と信じています。それは、AIには理解できても、本当の意味で“宿す”ことのできないものが、確かにあると思っています。

そして、“宿す”という過程でもっとも気をつけていることは、自分の信念に軸を置き、誰かの善悪や評価を受け取らないようにすることです。それは、表面的な情報だけでは決して測れない“物語”が、いつもそこにあると感じているからです。

たとえば、世間では「すごい」と褒められる人がいたとしても、そこに少しでも違和感があれば、その違和感を大切にしています。逆に、批判される人がいたとしても、その奥にとても強くて優しい物語が存在していて、それが尊いものだと感じたり、そうした“見えない部分”に、本当の美しさが潜んでいると思っています。

そんな想いがあるからこそ、わたしにとって"つくる"という行為は、背景の深さや物語を大切にすることに繋がっています。それは、見えないものにも寄り添い、優しく包み込むような魂からの表現であると同時に、願いであり、対話でもあります。
その感覚は、unのコレクションにも通じています。デビュー当初からすべてのアイテムに、コンセプトに基づいた名前をつけてきたのは、それぞれの物語が、誰かの心に語りかけてくれるようにと願っているからです。そうした願いを込めて、これからもコレクション全体のコンセプトとともに、それぞれのアイテムが持つ背景や想いも丁寧にお届けしていきたいと思っています。

このジャーナルもその一環として、作品を通して出会ってくださった皆さんと言葉を交わすように、より深いところで繋がっていけたらと願っています。そして、何気ない日々の中でふとこの場所を訪れてもらえたら、とても嬉しいです。